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金亀苑 金治直美ブログ

児童書を追いかける日々

日本人にとって特別な10日間で

  1. 2023/08/13(日) 16:12:05_
  2. あんな本、こんな本、どんな本?
  3. _ tb:0
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お盆ですね。
そして、8月6日のヒロシマ、9日のナガサキ、
15日の終戦記念日。
この10日間は、日本人にとって特別な日々でしょう。
わたしも、この時期は鬼籍に入られた
知友人のことを思い出します。
そして、戦争のことを考えないわけないはいきません。

先月のこと。
児童文学作家の松弥龍さんが病気で亡くなりました。
わたしは数回お目にかかったことがあるだけですが、
いつも努力されているまじめな方、という印象でした。
四月には『沙羅の風』(三上唯・絵 国土社)を
ご上梓されたばかりというのに。

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「『沙羅の風』、胸にしんと触れてくるいい物語でした。
小さな勇気で、ひとの心の扉を開き、
また自分の心の扉を開くことができるのですね。
まさに風を感じました」
そんな感想をお送りしたのは、まだ記憶に新しいというのに。
弥龍さんは、東京・国分寺で活動中の
「童話の会 ペパン」に参加されていて、
同人誌、「ペパンvol.4」に
「桜の花がゆれるとき」という作品を発表されています。
こちらも、暖かな風を感じさせてくれる作品でした。
この同人誌を手にしたのは、
弥龍さんご逝去の知らせを聞いたあとでした。
もしや、最後の作品でしょうか。
あまりにも早いご逝去が残念でなりません。

さて、その「ペパンvol.4」はとてもレベルの高い同人誌。

ペパン
       表紙イラスト いげたゆかり

「10をまちながら」(渡辺朋・作)という作品は、
翌日の8月10日を、それぞれの思いで楽しみにしている
五人の少年少女や大人の、小さなお話。
でも11時02分には・・・。
日常が一瞬で破壊されたことへの恐怖と慟哭が、
ラストの文章のないページから立ち上ってきました。

『ひろしまの満月』中澤晶子・作 ささめやゆき・絵 小峰書店

ひろしまの満月

こちらは幼年童話。ヒロシマのことを幼年童話にするのは、
とても難しかったはず。
けれどもこの作品は、カメの「まめ」を主人公に、
小学校低学年の子どもたちに、優しく沁み入るように
原爆の恐ろしさと戦争の理不尽さを描き出しています。

平和への祈りは、何度でも、何年も、繰り返さなくてはね。
この夏も、こんな作品に出合えたことが
ありがたいです。

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コロナ禍でも、コロナ禍だからこそ

  1. 2023/08/06(日) 16:07:00_
  2. あんな本、こんな本、どんな本?
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児童書にはいくつかの賞があるのだけれど、
そのなかで2023年度の「児童文学者協会賞」と
「児童文芸家協会賞」がおもしろい。

「児童文学者協会賞」が、
『マスク越しのおはよう』山本悦子・著 講談社
「児童文芸家協会賞」が、
『スクラッチ』歌代朔・著 あかね書房
 偶然、どちらもコロナ禍中にある中学生を描いているのだ。

『マスク越しのおはよう』は、
同じ中学校に通う五人の生徒を一話ずつ、
五話のオムニバスで描いている。

マスク越しのおはよう

コロナ禍の三年の前からずっと、
日常的にマスクをつけていた荒川千里子。
母子家庭で十分なマスクを買うことができず、
母親のヒョウ柄のスカーフで作ったマスクをつける、渡辺芹那。
ある理由からマスクではなくフェイスシールドをつける広田麦。
この機会に「別人のように変わって」登校できた小柳沙織。
家族が感染し、「人生オワタ」と絶望する田所美咲。
それぞれの悩みと心の揺れがリアル。

『スクラッチ』は、バレー部キャプテンの鈴音と
美術部部長の千暁、相互のモノローグ。
鈴音は「猛獣」と呼ばれるほど猪突猛進タイプ、
コロナ禍で体育大会が中止になり吼えている。
理性派千暁は美術展も中止なったものの、
黙々と絵を描き続けている。
正反対の二人は、それぞれもがきながらも
前に進もうとするが・・・。

スクラッチ

どちらの作品も、コロナ禍で変わらざるを得なかったこと、
変わりたかったこと、取り戻したかったことなどを
丁寧にあぶり出し読み応え抜群。
コロナ禍でも、いやコロナ禍という大きな障壁だからこそ、
若い人は歩み、乗り越え、大きくなっていく。

さわやかで力強く、涙腺ゆるむ二つの物語を、この夏にどうぞ。


切り口について考えてみた

  1. 2023/07/02(日) 16:22:19_
  2. あんな本、こんな本、どんな本?
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蒸し暑さMAXの埼玉です。
この時期の楽しみは、果物かな。

メロンには、特別感あります。
子どものころに初めて食べたメロン
(当時は小型のプリンスメロン)に、
さすがプリンス、王子様の果物だ! と
感動した覚えがあるの。
そのころは八分の一くらいにカットしたものを、
種をよけながらスプーンですくい、
皮の内側をギリギリまでけずりとって食べていましたね。
最後に底にたまる果汁は、
もちろん、じゅるじゅるすすっていましたとも。

今は、種をとってカットして、しずしずと食べますが、
種のまわりの果汁がもったいなくて、
ビンボーくさくもこんなことしています。

   せこいメロン

さて、カットしたのと、かぶっと食らいつくのと、
どっちがおいしいかな?

      メロン

どうも、カットしたほうがおいしいような。
口中にメロンの「角」が当たると、
おいしさが改まる、という感じ?

それを実感したのは、バナナ。
「ナイフとフォークで
一口ずつカットして食べるとおいしいよ、
特に【角】がね!」
友人がそう教えてくれたので、
やってみたら、ほんまやった!
いいことを伝授してもらいました。

   バナナ

「角」の効果が一番はっきりわかるのは、お刺身かな?
先日、毎朝魚市場で新鮮な魚を仕入れてくるのがウリの
デカ盛り海鮮食堂でランチしました。
たしかにお刺身はデカ盛りでした。
一切れ一切れが大きくて、いっぺんに口に入らない!
嚙み切って食べたのですが・・・
うー-ん、おいしくない。
そもそも、並ぶほどの人気店のわりにおいしいお刺身でもなく、
それをぐちゃっと噛みきるわけ。
ね、おいしくない感がわかるでしょ~?
やっぱりお刺身は、ピンと張った切り口も、
おいしさの大きなポイントですねえ。

そう、メロンも、バナナも。
「切り口」って、大事だなあ。

最近読んだ本の中で、
この切り口、いいなあ!と思った作品。

『列車にのった阿修羅さん 土蔵に疎開してきた国宝』
いどき えり 著 マスダケイコ 絵 くもん出版

阿修羅さん

太平洋戦争末期。奈良の興福寺にあった
国宝の阿修羅像が、列車に乗せられて奈良県南部の吉野へ
「疎開」したことを題材としています。
戦争を学び平和を願う児童文学はたくさんありますが、
「仏像さん」の疎開とは、 
鮮やかないい切り口だなあ! 

コミック『作りたい女と食べたい女』
ゆざきさかおみ 著  KADOKAWA

食べたい女

料理が好きなのに小食で、作っても食べきれないユキと
たくさん食べたい春日さん。
同じマンションに住む二人が出会い、そして・・・。
 「作る・食べる」ことを切り口にして、
 巻を重ねるごとに大きな深いテーマにぐいぐい迫っていきます。
続巻が待ち遠しいわー。




まっすぐっていいなあ

  1. 2023/01/20(金) 18:42:05_
  2. あんな本、こんな本、どんな本?
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お相撲にまつわる物語、そしてまっすぐな作品をご紹介します。

『どすこい!』
 森埜こみち 作 佐藤真紀子 絵 国土社

どすこい!

 ありそうでなかった、少年相撲の物語です。
六年生の凡は、学校対抗の相撲大会の個人戦で、
別の学校の「本物の相撲取り」みたいな子にぼろ負け。
次の大会は秋の団体戦。
凡は、仲間の健太と、元力士だという駄菓子屋のじいさんに
コーチをお願いしますが・・・。
 駄菓子屋のじいさんの、
柄本明っぽい屈折したショボさ、
その裏の意志と戦略、そして子どもたちへの情、
消えていなかった相撲への思いが、
この作品を奥深いものにしています。
 子どもたちは、まっすぐに「勝ちたい」
「強くなりたい」と願っています。
そこに迷いがないのが気持ちいい! 
そう、勝ちたい気持ちに理由なんていらないもんね。
子どもたちの暮らしぶりのもリアル。

表紙は、普通なら土俵や登場人物が描かれるところ、
裏表紙とともに物語に根差すある場所、
あるモチーフが描かれています。
このデザインも心憎いです。
読み終えてからのなるほど感が気持ちいい!

『おれ、よびだしになる』
中川 ひろたか 文  石川 えりこ 絵 アリス館

おれ、よびだしになる

小さいころから相撲が大好きなぼく。
でも、一番好きなのは、「おすもうさん」ではなく
「よびだし」さん。
ぼくは中学を卒業するとすぐ、
相撲部屋に住み込んでよびだしの見習いになり……。

これも、まっすぐ直球な意志を描いています。
ときどき差し色が入るだけのモノトーンのシンプルな絵に
「ぼく」のひたむきな表情が生きています。

よびだしさんの世界、知らないことばかりでした。
太鼓をたたいたり、
土俵を作ったりするのもよびだしさんの仕事。
懸賞金の幕を持って土俵を一周するのも、
よびだしさんだったんですね。

この2作を読んだあとは、
大相撲を観るのが楽しくなりますよ。



文豪とゲームのおしゃれな関係

  1. 2022/10/31(月) 17:16:24_
  2. あんな本、こんな本、どんな本?
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さいたま文学館の特別展「永井荷風」を見てきました。
明治・大正・昭和にわたる文豪・永井荷風。
さいたま文学館は、質量ともに全国屈指の
「永井荷風コレクション」を所蔵しているそうです。
今年はこの館の開館25周年、
また永井荷風の文化勲章受勲70年にあたる、とのことで
特別展の開催となりました。(11月27日まで)

しかし・・・実はわたし、永井荷風はさっぱり詳しくない、
というか、まるで読んでいません!
それでも見に行ったのは、チラシがとっても魅力的だったから。

チラシ (表)
チラシ (裏)

これらのイラストは、
文豪転生ゲーム「文豪とアルケミスト」のなかのキャラクターですって。
ゲームは、「ある時、【文学の世界を破壊する侵蝕者】が現れ、
文学書が真っ黒に染まっていくと同時に、
それらの文学書の記憶も、人々から消えていく。
この文学の危機に立ち向かうのは、
「アルケミスト」と呼ばれる特殊能力者。
国定図書館に赴き、「文豪」を転生させて敵に対峙する・・・
というものだそう。
永井荷風もそこに登場するキャラで、
ほかに森鴎外、正宗白鳥、、太宰治、谷崎潤一郎、佐藤春夫
ボードレールやランボーまで!

文学館のエントランスには、これらのキャラの等身大パネルが。
おもしろーい!

 パネル1
パネル2

こういうゲームとのコラボって、
文豪に不案内のわたしのような人間でも
取っつきやすくて、いいですよね~。(ゲームはやらないけどね)
やるじゃん、さいたま文学館。

で、肝心の展示内容も、とてもよかったです。
荷風の生涯や文学性が短時間にわかるよう、
工夫されていました。
もんのすごくじっくりと、説明のパネルを読んでいるお客さまも
複数いらっしゃいました。
さすが、特別展と銘打っただけのことはあるな。

荷風はフランス文学に傾倒し、
1907年にフランスに渡り、10か月滞在していたそうです。
父はボストン大学などに留学経験もある、
内務省の高級官僚でした。
そのつてで、彼も横浜銀行リヨン支店に勤めたのだけれど、
やっぱり性に合わない!と退職して、
あとはパリで遊んでいたとか。
その経験を元に書いたのが、「ふらんす物語」(1909年)、
でも「風俗を乱す」と発禁処分となっています。
発禁処分が解かれたのは、1915年のこと。
なんだかおもしろそう、読んでみようかな。

・・・と思わせてくれた企画展でした。

チケットは、航空券ふう。

  チケット

おみやげに、ポストカードを一枚頂きました。
イケてるボードレール。

カード

外に出ると、紅葉。

紅葉

そういえば、こんなコミックも。
『月に吠えらんねえ』全11巻 清家雪子・著 講談社

月に吠えらんねえ

主人公は萩原朔太郎。
近代日本の架空の街を舞台に、
キャラ化された主人公や北原白秋、三好達治、室生犀星、
高村光太郎らが詩作する世界で、
読んでいるとアタマがぐるぐるかき回されて、
ほぼバットトリップ状態となります。






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プロフィール

金G亀美

Author:金G亀美
イラスト:大塩七華
かなじ・なおみ 児童書作家 埼玉県在住。
主な著書に『さらば、猫の手』(岩崎書店)
『マタギに育てられたクマ』(佼成出版社)
『ミクロ家出の夜に』(国土社)
『花粉症のない未来のために』
『子リスのカリンとキッコ』(佼成出版社)
『知里幸恵物語』(PHP研究所)
『私が今日も、泳ぐ理由 パラスイマー一ノ瀬メイ』
(学研プラス)
『となりの猫又ジュリ』(国土社)
『クレオパトラ』『マイヤ・プリセツカヤ』(学研プラス)
『読む喜びをすべての人に 
日本点字図書館を創った本間一夫』
(佼成出版社)など。
日本児童文芸家協会会員 
童話サークル「かざぐるま」会員

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