金亀苑 金治直美ブログ

児童書を追いかける日々

作家さんてすごいなあ

  1. 2016/04/03(日) 15:18:22_
  2. 新しいインクの匂い
  3. _ tb:0
  4. _ comment:0
「書く」エネルギーについて、襟を正してくれた新刊書をご紹介する。

「ガラスの壁のむこうがわ」せいのあつこ著、北澤平祐絵、国土社

           9784337187597[1]
           
この本がデビュー第一作。
由香は友だちができず、休み時間には一人で本を読む。
先生や母親が発する「友だちをつくろうね」ということばが、
ガラスの豆となって、ぱしぱしとぶつかってきて、痛い。
「普通の子になりたい」と悩む由香。

この本を読んだたくさんの女の子が、
「わたしのことだ」と思ったことだろう。
「暗くて何考えているのかわからない」といわれている子だけじゃなくて、
「明るくて活発」と思われている子も。
そういう子って、そのイメージをキープするのに、
実はものすごくエネルギーを使い、疲れ果てているのかもしれないもの。

こういう物語を書くには、パワーがいるのだろうな、と思う。
やっぱり、明るくて楽しい話は、書いていても楽しい。
反対に、心の底に深く深く降りていくような物語は、
ひたひた深い湖のような静かな精神力が必要だろう。
ガラスの壁やガラスの豆、その透明で繊細な感覚を保つのに、
作者はどれだけのパワーを維持したことか。
「自分はどうよ? こんな精神力を持っているかい?」
自分につきつけてみた。

「天国にとどけ! ホームラン」
3・11を乗りこえて、バッティングセンターを作った父子の物語」
漆原智良・作 羽尻利門・絵 小学館

                09289747[1]

大ベテラン、大先輩作家の先生が描くノンフィクション。
震災で家族を失い、二人だけ残された父子の実話だ。
野球少年の息子と元高校球児の父が、悲しみと喪失感から立ち直り、
バッティングセンター設立のために動き出す。

まず、父親が体験した津波のシーンがすごい。
読むうちにこっちの足が冷たくなってしまった。
この父子の失くしたものの大きさに、愕然となる。
妻(母)、二人の娘(妹)、妻の両親(祖父母)や親戚など、
なんと一度に7人もの大切な人を失くされているのだ。
前を向いて歩き出すまでに、
どれだけの涙があったことだろう。

辛い話を取材するのは、辛い。
漆原先生は、どれほど心を痛めながら取材されたことだろう。
けれども作品は、その辛さに埋没することはない。
前面に描かれているのは、希望の光と人間の力強さだ。

新人さんと大ベテラン先生、その精神力と筆力に、
「作家さんてすごいなあ」と、
同業者のはしくれであることを忘れ、つぶやいた春。



何度でも語ろう

  1. 2015/07/19(日) 18:09:40_
  2. 新しいインクの匂い
  3. _ tb:0
  4. _ comment:0
何回も書いているが、わたしが一番恐いものは、戦争だ。
今回の安保法案を国会で審議している期間、
わたしは雑誌の仕事で、太平洋戦争末期、
レイテ島の戦いから生きて戻った兵士の方から話を伺い、
小学生向きの物語にまとめていた。
自分にできることをせいいっぱいやろうと思った。

書きながら、腹がたってしかたがなかった。
太平洋戦争では、食糧や武器の補給がないがしろにされていたことは、
テレビの特集番組などから知っていた。
けれども、これほどだとは。
武器を支給されないままフィリピンに輸送され、
現地で渡されたのはアメリカ軍からの分捕り品の、
持ち運びがたいへんな迫撃砲(小型の大砲のようなもの)だったそうだ。
しかも、弾薬は二発。
これでどうやって戦えというのだ?

勝てるわけがない、愚かしい戦争だった。

いや、待て。では、勝てる戦争ならやっていいのか?
だめだろ!
愚かではない、賢い戦争ってあるのか?
ないだろ!
その思いに何度でも立ち返り
何度でも戦争を語ろう。

大ベテラン作家・詩人のこやま峰子さんの新しい絵本
「いのりの石」(絵・塚本やすし)フレーベル館
石
(この本だけ、大きい画像が見つからず、申し訳ない)

1945年8月6日、ヒロシマ。
人類史上もっとも恐ろしい「あのとき」を語るのは、
広島市内の路面電車の「敷石」だ。
敷石たちはその後、観音様の像を刻まれて、
平和のメッセンジャーとなり、世界中へ送り出される――。

文字通りコツコツと、平和への祈りを刻みつけること。
その思いを世界の人々と共有すること。
それこそが「抑止力」と思うのだが。

さて、隠し方などが戦争とよく似た構造といわれる原発問題。
まだなにひとつ解決してはいないのに、
意図的に忘れ去りたい人がいそうな気配。
これでは悲劇が何度でもくりかえされてしまうじゃないか。

「あきらめないことにしたの」堀米薫・著 新日本出版社

                  あきらめない

 原発事故で故郷を追われた、福島県飯舘村の人々。
 畑から切り離され、取り組んできた新しいじゃがいもやかぼちゃの栽培を
中断しなくてはならない。
でも、福島のかーちゃんたちは、前を向く。

「あきらめないことにした」という言葉に、
「あきらめない」よりも、
原発事故後の終わりのない苦しみと逡巡の末の決意を感じた。


語り継がなくてはならないこと、もう一つ。
「ど根性ひまわりのき~ぼうちゃん」
漆原智良・著 さくらせかい・絵 第三文明社

    きーぼう


被災地の瓦礫のなかから芽を出し、花をつけ被災地の人々を
励ました一本のひまわり。
この種が、学校で職場で植えられ、花が咲く。
種は日本中へ広がり、やがて世界へ。
それにしても、人間はほんとうに忘れっぽい。
日本中が「がんばろう」と絆を強めたあの三月は
どこへ行った?
き~ぼうの根性と太陽に向かう姿が、
それを思いださせてくれる。

語りつぐ物語、ぞくぞく誕生だ。



どうぶつたちの物語

  1. 2015/07/12(日) 16:26:20_
  2. 新しいインクの匂い
  3. _ tb:0
  4. _ comment:1
愛亀の動物病院行きや、
人のささきありちゃんちのハピさん(インコ)の容態を
心配したりで、
このところ、すっかりどうぶつモード。

そんななか、素敵な動物ものの新刊が、次々と出版になりました。

ノンフィクション物語「なかよしヤギ一家のECOプロジェクト」
深山さくら著・佼成出版社

yagi.jpg

西武池袋線沿線で、ヤギがのんびりお食事? 
いえいえ、立派なお仕事です。それは、草刈り。
線路まわりの伸び放題の草に困った職員は、
草刈機を使わずに、ヤギさん一家に食べてもらうことに。
環境問題はもちろんのことですが、この時代を
心豊かに生きるための知恵と心意気を感じました。
 それにしても、ヤギがこんなに綺麗でかわいいとは! 盲点でした。

事実を元にして書かれた物語「目のみえないねこ、どろっぷ」
沢田俊子・著 田中六大・絵 講談社

どろっぷ

 目の病気をかかえた子ねこを拾ったつぐみ。
もともと家にいた三匹のねこたちは、
新入りの盲目のねこにどんな行動をしたでしょう。
引っ込み思案だったつぐみは、どう変わっていったでしょうか。
この本の魅力を、「やさしさ」という言葉で
一くくりにできません、したくありません。
「生きる力」「育つ力」の美しさが、
胸にあふれてくる物語です。 

創作物語の「ペットたんていにおまかせ! リンと魔法の鈴」
光丘真理・著 えいひ・絵 学研教育出版

リン

不思議な鈴の力で、ペットたちのSOSをキャッチできるようになったリン。
相棒の柴犬・忠太とともに、ピンチに陥っているペットたちを助け出します。
小学女子のハートへ一直線まちがいなしの、痛快カワイイ物語。
夢中で読みふけって、「あっ、ヤバ、塾の時間だ!」
「あたし、ピアノだった!」と駆け出す女の子たちが目に浮ぶわ~。

動物を慈しむ心や植物を育てる心は、人間に備わった美点の一つですね。
これをフル稼働させない手はありません。
なんたって可愛いし~。 ねこさんもヤギさんも、ワンさん亀さんインコさんも!



そっと差し出される物語

  1. 2015/03/17(火) 18:46:57_
  2. 新しいインクの匂い
  3. _ tb:0
  4. _ comment:0
浅い春のような、すがすがしさと温かさを
同時に感じさせてくれる新刊の物語を三冊後紹介します。

ささきありさん作「ふくろう茶房のライちゃん」(佼成出版社)。

ライ

ふくろうには人の心をいやす力がある、と気がついたひかるの一家が、
ふくろうカフェを開く物語です。
読むうちに、ふくふくもふもふとした温もりが、そっと静かに差し出されます。
その自然体の空気が、実に心地よいのです。
ふくろうのエサやりのことなど、生態もきちんと押さえられていて、
生きることの厳しさもしっかり伝わります。
ありさんは、実生活でもインコちゃんと長年いっしょに暮らしていて、
大の鳥好き。その愛が、そこかしこに本のなかにあらわれています。

野村一秋さん「ミルクがにゅういんしたって?!」(くもん出版)

繝溘Ν繧ッ_convert_20150317183716

こちらも、そっと差し出される物語。
なっちゃんのクラスで飼っているハムスターのミルク。
病気になって入院した、とさよこ先生はいったけれど……。
ひっこみじあんだったなっちゃんの思いと勇気が、みんなを救います。
野村さんの作品からはいつも、大人だって先生だって、一人の弱い人間。
子どもたちにその弱さを見せることを恐れないで。
子どもたちはちゃんと受け止めてくれるよ」というメッセージを感じます。

広瀬寿子さん「かぐや姫のおとうと」国土社。

かぐや

大ベテラン作家が放つ、かぐや姫伝説をモチーフとしたタイムファンタジーです。
千二百年の昔からくり返されてきた、生まれ代わりを描く壮大なロマン。
しかし、その世界は大仰ではなく、さらりと、ひそやかに差し出されてきます。
竹林から吹いてくる風と共に……。
物語の美しい佇まいに、ふるふるっと、ふるえ来るほどでした。

物語を読む楽しみは、それこそ最古の物語とされる「かぐや姫」の時代から、連綿とつづいているのですね。その末端にいられる幸せを感じました。


世界の創りかた――リアルと脱リアル

  1. 2014/12/28(日) 16:48:51_
  2. 新しいインクの匂い
  3. _ tb:0
  4. _ comment:0
暮れの慌しい時期ですが、
しめくくりに、二冊の本をご紹介します。
「モーモー村のおくりもの」堀米薫さん・著 岡本順さん・絵 文研出版
「グッバイ山でこんにちは」間部香代さん・著 山口マオさん・絵 文研出版
ほぼ同時期に、同じ出版社から発売されました。

「モーモー村」がめっちゃリアリズムなら、
「グッバイ山」はめっちゃナンセンス童話です。
真逆ともいえる二作ですが、どちらも世界の創りかたが素晴らしい。

「モーモー村」は、ママをなくしたばかりの美咲が、
パパといっしょに山のなかの「モーモー村」にやってきて、
自然ゆたかな村の暮らしのなかで立ち直る、という物語。

                   モーモー

村の農家さんの暮らしがすばらしく、
ちまちまとした町住まいのわたしは、うっとり。
作者の堀米さんは宮城県で専業農家さんをされながら、
児童書作家さんとして活躍中の方ですから、この物語のリアリティは、
その地に足のついた暮らしに支えられているというのが、すぐにわかります。
しかし、農家さんだから書ける、というものではありません。
農家の暮らしのどこを切り取って、物語に生かすか。
農家さんにはあたりまえのことを、
農業を知らない読者に、どう伝えるか。
例えば、稲の花のにおい。稲モミをしごくと出てくる、お米の味の白い汁。
知らなかったわ。なるほど! 
おもちつきのシーンで、「もちつきの音は、正月がやってくる音だよ」と、
となりのおばあちゃん。なるほど!
あこがれの詰まった「なるほど」がたーくさん口をついてきました。
構えず、気負わず、さらりとさわやかに、暖かく。美咲の心に寄り添って。
その匙加減が見事です。

「グッバイ山」は、めずらしいナンセンス物語、高学年向きです。
ナンセンス絵本はあれども、長編物語はめずらしいのでは。
 あり日、グッバイ山の向こうを見たくなったサルのピエールは、
グッバイ山にトンネルをほることに。

       グッバイ

はあ? フツウは山を越えていくよね? 
脱リアルのありえない展開、でもやっぱりありえる世界、
かと思いきや、ありえないほどすてきにユーモラスなキャラが次々に登場します。
アリのママがやっている「ありのままカフェ」やら、
ドーナツが好きすぎてドーナツの穴まで?愛しているイタチのチタローやら、
いつも反対のことをいいあうウサギのニッチとサッチやら、
一味ちがうキャラばかり。
おつりの計算ができないことに思い悩んで
倒れてしまった「そのままカフェ」のジャイルに、
ひとけたの足し算もおぼつかないカナジは、深く共感したのでありました。
 くすくす、けけけと笑わせてくれながら、最後は胸に落ちる結末へ。
ナンセンスというのは、百万ワードの文章を並べるよりも
雄弁に哲学を語るんだな、と読み終わるころに気づかされます。
センスがない人にはナンセンスは創れません。
それができる作家さんは、稀有な存在です。

この間部香代さん、
ネットショップ&原宿のリアル雑貨ショップ「マッシュノート」オーナーにして
コピーライター兼童話作家さんというマルチな方。
かたや堀米薫さん、牛飼い、米作農家、林業という
アウトドアのお仕事をこなしながらの作家さん。
お二人とも、いったいいつ執筆しているのでしょうね~~~? 

ともあれ、みなさま、よいお年をお迎えください。
玄関のお飾りは、クリスマスが終わると同時に出しました。
明日は鏡もちを飾ります。



<<NEW ENTRY  | BLOG TOP |  OLD ENTRY>>


プロフィール

金G亀美

Author:金G亀美
かなじ・なおみ 児童書作家 埼玉県在住。
主な著書に『さらば、猫の手』(岩崎書店)『マタギに育てられたクマ』(佼成出版社)『ミクロ家出の夜に』(国土社)『花粉症のない未来のために』『子リスのカリンとキッコ』(佼成出版社)『知里幸恵物語』(PHP研究所)『私が今日も、泳ぐ理由 パラスイマー一ノ瀬メイ』(学研プラス)など。
日本児童文芸家協会会員 
童話サークル「かざぐるま」会員
よみうりカルチャー・大宮教室
「童話を書いて楽しもう」講師
イラスト:なかむらしんいちろう

« 2017 11  »
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR