金亀苑 金治直美ブログ

児童書を追いかける日々

通りすがりのアニマル・セラピー

  1. 2017/05/14(日) 13:18:49_
  2. あんな本、こんな本、どんな本?
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連休が明けたこの季節になると、思い出す風景がある。
速足で歩く数頭のサラブレッドの、上下する頭部だ。
数十年前の記憶である。

わたしは社会人一年目。
満員電車に押し込められ、会社で必死に仕事をおぼえ、
一か月たってようやく連休となり、たっぷり遊び、無情にも休みが終わった。
「学生時代に戻りたいよ~」、一番精神的に辛い時期だったかもしれない。

当時わたしは、高田馬場に配属されていた。
一刻も早く山手線のラッシュから解放されたくて、
一つ手前の目白で降りてみた。
学習院大学のキャンパス沿いの道は、文句なしに気持ちよかった。
そして――馬術部があるのだろう、
へいの向こうに、お馬さんの頭が見えた。
美しい大きな生き物は、崇高だった。
つやつや光る横顔が、
緊張し疲れていたわたしをほぐし、新鮮な空気を注いでくれた。
通りすがりの、きわめて優秀なセラピーアニマルだったのだ。

だから、あかりちゃんの気持ちはよーくわかる。
『あかりちゃんのつうがくろ』
うるしばらともよし・文 よしだるみ・絵 垣内出版 刊

あかり


小学校に入学するのは、不安がいっぱい。
でも、羽村市のあかりちゃんの学校の通学路は、素敵です。
動物園のなかを通りぬけて学校へいっていいのです。
あかりちゃんは、どうぶつたちにあいさつしながら、
元気に学校に通うようになります。
いいなあ! こんな通学路、わたしも歩きたいなあ。

動物園にまつわる物語をご紹介。
『おりの中の秘密』シーン・ウィリス 著 あすなろ書房 刊 2005年

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トムは、耳は聞こえる、頭もちゃんと働く。でも、話せない。
ことばを話さないものたちといっしょにいたくて、トムは動物園に通います。
ゴリラのザンジと心通わせるうちに、ザンジの危機を知ったトムは、
思い切った行動に出ます。それは、あまりにも危険な賭け――。
これは、ファンタジーかメルヘン?
それとも、現実? 
不思議なリアルさが、脳をおかしな具合に刺激してきます。

『グリーン・ノウのお客さま』ルーシー・ボストン 著  評論社 刊

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古典名作、『グリーン・ノウ』シリーズの4作目。
このシリーズは、グリーン・ノウというお屋敷にまつわるファンタジーですが、
この巻は異色。
故郷の密林を夢見て動物園から脱出してきたゴリラと、
この屋敷に滞在する難民の少年との魂のふれあいを描き、
深い感動を呼びます。

ゴリラ×2になってしまった。
ハイ、わたしゴリラ大好きなんです。


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落語ーー江戸から昭和、平成につながる空間

  1. 2017/04/09(日) 17:50:01_
  2. あんな本、こんな本、どんな本?
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上野の鈴本演芸場へ、初めて落語を聞きにいきました。

後ろのほうからでも噺家さんの顔の表情がよく見える程度の広さで、
座席ごとに小テーブルがあり、
お弁当やお菓子を食べててもOK。くつろげます。

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昼の部、夜の部、どちらも2800円で、出入り自由です。
昼の部は四時間もあるので、途中から入場しました。
古典落語あり、新作あり、漫才や手品や、三味線の小唄あり、
紙切りもありで、ぜんぜんあきません。眠くもなりません。
どれも見事な「芸」です。
一朝一夕にできるものではないことが、
いいトシのおばさんになった今、ほんまによーく身に沁みます。

そして、じわあっと心地よい、なじみのある空気。なつかしい・・・。
子どものころ、落語や紙切り芸を、テレビでよくやっていました。
それほど熱心に見ていたわけではないのに、
この間(ま)、この声、しぐさ。五感にしっくり入ってました。

聞くのはお江戸の古典落語や、それをアレンジした新作ですが、
よみがえってきたのは昭和の「お茶の間」でした。
思えば、江戸から昭和、歴史のなかではそんなに遠くないんだなあ。

明治、大正、昭和、平成と、
歴史の幅からみたらわずかの歳月なのに嵐のような激動。
それでも変わらないのは人の心。
その機微や笑いの表現には普遍的なものが流れているのしょう。
そこへ、時代時代に合わせて少しの新味を加えてあり、
すんなり身に溶け込むように創られています。
たいした文化です。したたかです。
こういう庶民の文化は、やはり平成でも花開いてほしいものです。

というわけで、落語をモチーフとした児童書です。
  

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『がむしゃら落語』赤羽 じゅんこ・著 きむら よしお ・絵

マジメ人間で友達もあまりいない雄馬、イジワル男子の謀略にはまり、
やったこともない落語を演じるはめに。
しかたなく、たまたま知り合ったぱっとしない若手噺家に教えてもらい
落語の特訓をするものの、この師匠はまるで頼りなく、
また肝心の話のオチが、どこか心にしっくりこない――。
読むうちに、落語の話そのもののユルさや、
噺家さんたちのシャレに満ちた会話がとっても心地よくなってきます。
主人公の生真面目ぶりとのギャップが、むしろスリリング。
さあ、落語はうまくいくのか?とハラハラ。

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『あしたも、さんかく 毎日が落語日和』安田夏菜・著 宮尾和孝・絵 講談社 

熱血で仕切り屋なのがアダになり、クラスのなかで浮いている圭介。
そこへ、落語家を目指すも挫折して行方知れずになっていたじいちゃんが帰ってきました。
でもじいちゃんはあきらめていません。
今度こそはとアマチュア落語コンクールに出場しますが・・・。
全編大阪弁で語られ、気がつくと作者の術にはまって
気分はすっかり上方落語。
じいちゃんの思いが、胸にじんわり沁みます。
人生、「さんかく」でいいんだよね!

この二作、はからずも落語をモチーフとした児童書の東西合戦のよう。
なんせ、赤羽さんは東京人、安田さんは関西人。
真面目で冷めてて「省エネ」と呼ばれる雄馬と、ムダに熱くて濃い圭介。
江戸と上方。空気の違いはあっても、
人間の弱さや悲しみ、浮世の辛さを、笑いでふっ飛ばすエネルギーはいっしょ。
そして、お二人の作家さんの、落語愛の深さもいっしょ。

寄席、また行ってみようっと。


世界で一番好きな画家さん

  1. 2017/03/19(日) 15:53:51_
  2. あんな本、こんな本、どんな本?
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すみだ北斎美術館に行ってきた。
葛飾北斎さんは、わたしが世界一好きな画家さん(ただし、わしゃ美術オンチ)。

日本文化の華であり江戸の町人文化の豊かさの象徴、
世界に誇れる芸術、浮世絵。
東海道五拾三次の歌川広重にもうっとりするし、
鬼気迫る幽霊画の河鍋暁斎も好きやけど、
頂点はやはり北斎と思います。

今回観た、ため息モノの展示品のなかで、わたしが何度も戻ってはながめたのが、
『百人一首うはかゑとき』のなかの、
「奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の声きく時ぞ秋は悲しき」を題材に描いたもの。
一日山里で野良仕事をして、帰宅する村人たち。
指さす山のてっぺんに小さく二頭の鹿。
和歌では淋しさを強調しているが、この絵には満ち足りた安らぎを感じる。

あれだけの天才画家なれど、生涯貧乏で長屋住まい。

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画室を再現したもの(写真可でした)
ほぼ一年中、こたつに半身をつっこんで、
こんなカッコで描いていたそう。筆が時々動くのでドキッ!
いっしょにいるのは、娘の絵師・お栄(葛飾応為)。

90歳で亡くなるまで生涯現役、武士が嫌いで権威も嫌い、
一筋縄ではいかないじいちゃんだったようで。
絶筆といわれる「富士越龍図」(龍が富士山から空へ向けて飛び立つ絵)を
小布施の「北斎館」で初めて見たときは、
ビビビと震えが来た。

ミュージアムショップには、たくさんの北斎の研究本や画集。
そして、児童向け伝記の決定版がありました。
『葛飾北斎 世界を驚かせた浮世絵師』芝田勝茂・文 あかね書房

        無題

北斎の生涯がばっちりわかるのはもちろんですが、
日本絵画史上の謎の絵師・東洲斎写楽と北斎の深~~~~~い関係や、
「富嶽三十六景」には武士の姿は一人も出てこない、などの
‟へえ~~~”もたっぷり。

娘のお栄も好き。
お栄を主人公にした小説『眩 くらら』朝井まかて・著 新潮社

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絵師に嫁ぎ、離縁してからの半生を描いています。
彼女(葛飾応為)の代表作、「吉原格子先之図」(本の表紙になっているもの)は、
光と影の効果を追求した画期的な絵。
それを描くときの思いを、本文ではこう語っています。
 
――実(じつ)が過ぎては絵が賤(いや)しくなりはすまいかと、
今のお栄はおもうのだ。そう、目の前にある景色、
その表面(おもてづら)に囚われたら絵の真情を損なってしまう。
 (中略)
西画じゃなくて、かといって昔ながらの吉原図にもしたくないんだ、あたしは。

西画はヨーロッパ絵画のこと。
遠近法と明暗を重んじて見たままを写実的に描く技法を、わかってはいるけれど、
それをそのまま受け入れたくはない、けれども従来の浮世絵の画風を踏襲したくもない。
新しい絵の境地を拓こうとする彼女の意気地と熱がぷんぷんと。
かっこいいね!

お栄を主人公にしたコミックもあります。わたしにとって、もはやバイブル。
アニメ映画にもなりました。
『百日紅』杉浦日向子・作

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こちらは娘時代のお栄を描いています。
杉浦さんは江戸からタイムスリップしてきたかのような、
昭和・平成の江戸人でしたなあ・・・。
もっともっと生きて描いてほしかった。


児童書専門店「ピッピ」から生まれた本

  1. 2017/03/05(日) 18:17:24_
  2. あんな本、こんな本、どんな本?
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「世にも不思議なお話」(PHP研究所刊 絵・Simano)発売中だ。

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わたしは、「夜中先生」という物語を書かせていただいた。
このシリーズは、ほんとうにあった不思議なことを核にしている。
「夜中先生」のモデルとなった方も、実在の人物だ。

さて、わたしには、出身地や卒業した学校とは別に、
誇れる「出身」がある。「ピッピ」という児童書専門店だ。
学生時代の終わりころから、店主さんの勇退による閉店までの二十数年、
客として、またアルバイト店員として楽しい時を過ごさせてもらった。
「夜中先生」のモデルの方は、この店の常連さんで、
小学校の夜間警備員さんをされていた。

「ピッピ」はほんの小さな店だったけれど、カフェが併設されていて、
わたしは、有機野菜を使ったランチの調理係だった。
「夜中先生」は、このカフェのカウンターで聞いた話が元になっている。
そういえば、わたしの単行本「ミクロ家出の夜に」(国土社・刊)も、
別の常連さんから聞いた話がヒントとなって生まれた。
「めだかの学校」のように、「だれがお客か店員か~」という、
暖かな、でも個性あふれる顔ぶれが集う店だった。

カフェの白い壁は貸しギャラリーとなっていた。
ギャラリーに展示を申し込むのは、絵本作家の卵さんや画家の卵さん、
アマチュア写真家さんたち。
そのなかから、早川純子さん、田中清代さん、なかむらしんいちろうさん、
鶴田陽子さんなどの絵本作家さんが巣立った。ピッピの「同窓生」だ。

お店はちっとももうかっていなかったが、
常連さんたちが「わたしのお店」として、いろいろなことに参加してくれた。
ケーキを焼いてくる人、カレーを仕込む人、お店のミニコミ誌を作る人。
絵本の読み語りの会や読書会、哲学を語る会なども毎週のように開かれていた。
みーんな、この空間を愛していたなあ。

閉店から17年。今でも、年に一度同窓会が開かれている。
店主のTさんと、元バイト、元常連さんが十数人、ひとときの宴に酔う。

いい時間と、中身の濃―い人たちに恵まれていた、あの頃。
その記憶の一端を「夜中先生」という物語にできたことがうれしい。

「夜中先生」の夜間警備員さんについては、単行本にもなっています。
ピッピ「同窓生」鶴田陽子さん作・絵による
『夜の校長センセイ』(ぱる出版、2004年)

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こちらは不思議な話ではなく、
小学生のボクとの心温まるやりとりを描いています。

常連さんが作ってくれた、カフェ用のティポットカバーとナプキン。
店終いのときにもらってきて、今も大切にしています。

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お雛さま、ごめんね

  1. 2017/02/26(日) 16:34:34_
  2. あんな本、こんな本、どんな本?
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雛祭りが近い。
女の子のいない我が家でも、お雛さまを飾った。
亡き母から、贈られたものだ。
もう30年近く前だろうか、母は当時はやっていた木目込み人形製作を習い、
何体か作っていた。そのなかの一つだ。

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(写真、へたやなー。本物はもっとかわいいです)

わたしが子どものころ実家にあった雛人形は、
とてもとても、痛かった。
ガラスのケースに入った小さな小さな親王飾りと三人官女のみ、
いや、それはいいのだ。小さくても、ささやかでも(というか、小さいほうが好き)。
でも、このお雛さまたちは、子どもの目にも安物ということがバレバレだった。
顔も髪も衣裳までも、絵具をべったりと塗りこんだものだった。
おそらく、乏しい家計をやりくりして買ったものなのだろう。
母は、この小さなケースだけでは寂しいからと、
わたしたち姉妹のぬいぐるみも並べて飾った。
うす汚れたぬいぐるみに囲まれたお雛さまは、よけいに痛々しかった。

わたしたちが喜ばないのを、母は察したのか、
小学校3年生くらいのころには、もう飾られることはなかった。

そんなこともあって、母は木目込み人形製作を習ったのかもしれない。

実家はすでにない。
20年ほど前、家を売り渡すとき、引っ越しを手伝った。
あのお雛さまが出てきたら、どうしようかとどきどきしていた。
処分するしかないが、供養のためにお寺や神社に持っていく時間はない。
だが、わたしが目を泳がせているうちに、
当のお雛さまのガラスケースは不要品の山のどこかに紛れたらしい。
目にすることはなかった。

あの貧弱なお雛さまたちの末路が、今も心に淀んでいる。
ごめんね、愛してあげられなくて。

これはわたしが数年前に買ったお雛さま。ケースの大きさ2センチ。
手前は、ゼムクリップ。

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お雛さまの本といえば、これ。
『もりのひなまつり』こいでやすこ 作 福音館書店 2000年
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 のねずみたちのひなまつりに招かれたおひなさまたちが、
森へでかけ、楽しいひとときを過ごしますが、帰り道で雪がふってきて――。
お雛さまたちの美しさに、ためいき。
読み語りのとき、騒いでいる男の子たちも、見とれるほどです。

『ひいな』いとうみく 作 小学館 2017年

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由良は祖父母の町で過ごすうちに、お雛さまの声が聞こえることに気づきます。
母と祖父の不仲の原因を知った由良は、
お雛さまを通じて家族の修復を願いますが――。
お雛さまたちのユーモラスな会話も魅力。
いつの時代も、お雛さまは女の子の味方です。

それにしても、いとうみくさんって、いったいどこまで進んでいかれるのでしょうね。


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プロフィール

金G亀美

Author:金G亀美
かなじ・なおみ 児童書作家 埼玉県在住。
主な著書に『さらば、猫の手』(岩崎書店)『マタギに育てられたクマ』(佼成出版社)『ミクロ家出の夜に』(国土社)『花粉症のない未来のために』『子リスのカリンとキッコ』(佼成出版社)『知里幸恵物語』(PHP研究所)『私が今日も、泳ぐ理由 パラスイマー一ノ瀬メイ』(学研プラス)など。
日本児童文芸家協会会員 
童話サークル「かざぐるま」会員
よみうりカルチャー・大宮教室
「童話を書いて楽しもう」講師
イラスト:なかむらしんいちろう

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