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金亀苑 金治直美ブログ

児童書を追いかける日々

記憶にございませんが、再スタート

  1. 2019/10/06(日) 15:13:10_
  2. あんな本、こんな本、どんな本?
  3. _ tb:0
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三谷幸喜監督の映画『記憶にございません!』を観てきた。

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投げつけられた石が額に当たり倒れた内閣総理大臣。
目覚めると記憶を失っていて――。
彼はこの難局をどう乗り切るのか。

実はこの男、歴代内閣最低の支持率を叩きだした、
カネと欲と不倫まみれの嫌われ者。
おのれの姿を、「新しい」彼は徐々に知っていき・・・。

随所にちりばめられた政治家のおちょくりに、にやにやゲラゲラ。
森〇学園の園長に似た男や既視感のある女性党首なんかも出てくる。

この総理がどう変わって、さらに周囲をどう変えていくのかが見どころではあるが、
あまり難しく考えず、思い切り笑えばいいのだろう。
わたしとしては、もうちょっと現政権への風刺があればもっとよかったな~。

偶然だが、『リスタート』」という物語を、
映画に行く前日まで読んでいた。

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『リスタート』 ゴードン・コーマン 作 あすなろ書房
主人公は、自宅の屋根から落ちて記憶喪失となる13歳の少年、チェース。
彼はアメフトのスター選手であり、またとんでもない悪ガキでもあった。
アメフトの仲間とイジメを始めとする問題行動をくり返し、
いじめた相手が泣く泣く転校していっても
笑いのネタにするようなヤツだ。

大人と少年、総理と学生のちがいはあれど、
よく似た物語だ。

チェースは、記憶を失ったあとは、まっとうで善良な感受性を素直に発揮し、
彼を恐れ憎んでいた同級生たちも、徐々に「新しいチェース」を受け入れていく。

こんなにうまくいくか?
記憶がなくなっても、元の性格や気質は、そうそう変わらないんじゃないのか?
そんなことをつらつら感じながらも、ページはどんどん進む。
それは、彼をめぐる少年少女たちの語りがとてもおもしろく現代的で、
リアルな10代の感覚が生きているから。
ラストはまさかの涙腺決壊! 
笑えて泣ける青春ストーリーだった。

そういえば、わたしも中学生のころ自分がイヤで、イヤでイヤで、
13年の人生をまっさらにリセットしたかったな。

再スタートって、もしかしたら、多くの人に共通の願望なのかもしれない。
だから、笑いながらも胸の深い部分を突かれるのかもしれない。

「記憶喪失」は、昔からドラマやラノベ、コミック、映画などでも何度も使われ、
ある意味、時代がかっているかもしれない。
でも、「再出発」には、やはり感動がある。
この「装置」を巧みに使った二つの作品、どちらもお勧めです。


目眩くファンタジーとしっとり和のファンタジー

  1. 2019/09/29(日) 15:50:38_
  2. あんな本、こんな本、どんな本?
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最近出会ったファンタジーから2冊、ご紹介。
『月の光を飲んだ少女』 ケリー・バーンヒル作 表紙画 玉垣美幸  評論社

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中世ヨーロッパと思わせる小さなある町には、毎年赤ん坊をいけにえとして
魔女に差し出さなければならない決まりがあった。
村は閉塞感と悲しみでいっぱい。と、設定はよくある話。
ところが、その魔女は、村人がなんのために毎年森に赤ん坊を捨てているのかを知らず、
ひそかに赤ん坊を助け、かわいがって育てていたのだ。
ある年に助けた女の子に、魔女はうっかり魔力を持つ月の光の飲ませてしまう。
女の子は不思議な力をもつようになり・・・。
恐怖とあきらめが支配するこの町を救うのはだれ? 
そもそも、敵はだれ? 真に邪悪な者は意外にも・・・。

月の光を飲んだルナ。心正しくやさしい魔女、ザン。
思慮深い若者アンテイン、勇気と行動力あるその妻エイサン。
これらの人々が織りなすストーリーは、まさに目眩くファンタジー。

魔女の物語は山ほどありますが、
これはよくある魔女モノの顔をした、新しい物語でした。
「持病」のファンタジー欠乏症が、いっぺんに解消できました。

こちらは「和」のファンタジー。
『かなと花ちゃん』富安陽子 作 平澤朋子 絵 アリス館

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どういうわけか人形が主役のファンタジーに弱くて、
ルーマー・ゴッテンの『クリスマスの女の子』や『人形の家』、
シルヴィア・ウォーの『メニム一家の物語』シリーズも、梨木香歩さんの『りかさん』などなど大好き。
この作品も人形ファンタジーです。

野原に置き忘れられていたお人形の花ちゃんを抱き上げてくれたのは、かな。
花ちゃんは、かなに話しかけてみます。
かなは花ちゃんを家に連れ帰り、毎日いっしょに過ごすうちに、ふしぎなできごとに出会うように・・・。
かなの家である八百屋さん、お縁日、お寺の四天王、人形師のおじいさんなど、
どこか漂う懐かしい香りは、「昭和の女の子」も楽しめるでしょう。

富安さんは、『シノダ!』『妖怪一家九十九さん』シリーズなどの、
妖怪や神さまの楽しいファンタジーで知られる、大人気作家さん。
『かなと花ちゃん』は高名なシリーズ作品の陰でひっそりとたたずんでいるような、
ほどよく肩の力の抜けた極上和風人形ファンタジーでした。これはもう名人芸ですね。

やっぱりファンタジーはええなあ。


ファンタジー欠乏症の処方薬

  1. 2019/07/07(日) 15:43:06_
  2. あんな本、こんな本、どんな本?
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 わたしはときどき、欠乏症にかかる。
 それは、「ファンタジー欠乏症」。
 
 子どもの時から、童話、物語といったら、ファンタジーと思いこんでいた。
といっても、小学生の頃はまだ本格的なファンタジーは広まっていなくて、
「長くつ下のピッピ」や「バンビ」をファンタジー世界のようにとらえて
(海外の児童書は、わたしにとってはファンタジーなのだ)、
空想に浸っていた。
たま~に日本のリアリズムの児童書を読むと、
むしろあまりに現実離れした子どもの世界に、???マークを飛ばしていたっけ。

今、次から次へと読まなければならない本があり、
ふと気が付くと、「ああ、このところファンタジー読んでない!」
飢餓感に襲われてしまう。

そんな日々に、たっぷりファンタジー世界に浸らせてくれたのが、この二冊。
『カッコーの歌』フランシス・ハーディング 著 東京創元社

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 池に落ちて、一時的に記憶が混乱した11歳のトリス。
その耳元に、「あと七日」とささやく声。おそいかかるハサミ。異常な食欲。
妹は、「あれは偽のトリスだよ!」と叫ぶ。
わたしは、本当はだれ? なにが起きているの?
 舞台は、1920年の第一次世界大戦が終わって間もないイギリスのエルチェスター。
街の名士であるトリスの一家の礎となった後ろ暗い謎が、
トリスと妹、そして目には見えない不思議な人達の存在によって、動き出す――。
 
 脳内ぐるぐる、胸いっぱいおなかいっぱい。
これぞめくるめくファンタジー、100%堪能しました! 
結末は、予想を90度裏切られた。これもありか? うん、ありだわ。
 
『おじいちゃんとおかしな家 』西 美音  著・石川 えりこ 絵 フレーベル館

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くるみは小学4年生。くるみのおじいちゃんは元大工で、
木でいろいろなものを作るのだが、作るものはみんなへんてこなものばかり、
へんてこな「事件」が起きてしまう。
くるみと親友のマナちゃんは、その事件に遭うたびに大笑い。
おじいちゃんにもゼンさんという親友がいるのだけど、
その人にも大きな秘密があって、大騒動に。

カラっとしてのびのびと愉快で、
こういう作品って、なかなか書けないのではないかな。
くるみとマナちゃん、おじいちゃんとゼンさんとの友情もアツくて清々しい。

『カッコーの歌』が、「脳内ひっかきまわされるファンタジー」としたら、
こちらは「アタマと心がほどけるファンタジー」。

こういうのを読むと、数か月は元気でいられます。
そんな作品を、わたしも書きたいなあ。


『しあわせの牛乳』を生み出した牛オタクさん

  1. 2019/05/26(日) 16:07:54_
  2. あんな本、こんな本、どんな本?
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23日は、日本児童文芸家協会の総会・各賞贈呈式・懇親会の日でした。
この日は、「サークル交流会」「秋木真講演会」も開催されたので、「一年で一番長い日」。
詳しくは、こちらから

今年、受賞されたのは、この方々です。
受賞者

左から、篠崎三朗様(児童文化功労賞)、国松俊英様(児童文芸ノンフィクション文学賞特別賞)、
井上こみち様(児童文化功労賞)、湯山 昭様(児童文化功労賞)、
佐藤慧様(児童文芸ノンフィクション文学賞)、森川成美様(日本児童文芸家協会賞)、
森埜こみち様(児童文芸新人賞)。
おめでとうございます!

受賞作品はどれもおもしろいものばかり。
そのなかから、佐藤慧さんの『しあわせの牛乳』をご紹介します。(写真・安田菜津紀 ポプラ社)

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           なんてかわいい牛さん! 牛への愛が伝わってくるなあ。 

主人公の中洞正さんは、酪農家です。子どものころから牛が大好き。
だから、牛の健康を損ない寿命を縮める「近代酪農」をしたくはなかった。
やがて、「山地(やまち)酪農」という、山の斜面で牛を飼育する酪農法に出合い――。

この山地酪農という方法、わたしは初めて知りました。
牛を山の斜面に放牧するのです。
牛たちは、自分でエサとなる植物を探しだして食べ、
そのフンは土に還り豊かな土壌を生み出します。
北海道のような広大な牧場がなくても十分。
どこも山だらけの日本の風土にあった酪農かもしれません。
これなら、毎日のエサやりも何十キロにもなるフンの片づけに追われることなく、
人間も健康、牛も健康! しぼった牛乳は、当然、自然のおいしさいっぱいです。

ページをめくるたびに、丁寧な取材と優しい目線の文章、
四季折々の牛たちの写真にひきつけられます。
牛をいじめるような「近代酪農」への怒りも、
じわじわとこめられています。

なにより、中洞さんの「牛オタク」ぶりにぐぐっときました。
世界はこんな素敵なオタクによって、より良く変わっていくのですね。

それにしても、われわれはもっと、
食べるものがどうやって作られているのか、知るべきだなあ。
動くこともできない狭い牛舎に閉じ込められ、
草食なのに穀物などの濃厚なエサを食べさせられ太らされ、
子牛を産ませられ乳をしぼられ、
乳の出が悪くなったら肉牛として売られていく牝牛たち。
同じ「女性」として、うわー、「近代酪農」の牛には、なりたくはない、
と胸がズキズキ痛みました。

でも、自分が牛でなくてよかった、と安心してしまったら、何も変わらないですね。

作者の佐藤慧さんと、ちょっとお話しすることができました。
「佐藤さんも、牛がお好きなんでしょう?」とわたし。
「はい、好きです~」と、佐藤さんは牛みたいにおだやかな黒い瞳で、にっこり。
(でも体型は牛とは似ても似つかぬ、長身でシュッとした方です)

佐藤慧さんは、世界の紛争地帯の取材で知られるフォトジャーナリストさんです。
なのに、なんでこんなに児童向けの文章が上手なの~~? 


戦争がコワイので、こんな本を読んだ

  1. 2019/01/13(日) 17:43:33_
  2. あんな本、こんな本、どんな本?
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ほんとうに何回も書くけれど、わたしが世の中で一番怖いものは、戦争だ。
戦争は、考えつく限りの絶対悪の集合体だ。
昨年も、何冊かの戦争にまつわる児童書を読んだ。

何度も小学校で読み語っているのが、この絵本。
『キンコンカンせんそう』
ジャンニ・ロダーリ 作 ペフ 絵 アーサー・ビナード 訳 講談社

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 戦争を続ける二つの国。大砲を作るために、教会の鐘まで供出させるが、
その大砲をぶっ放すと・・・。ロダーリのユーモアたっぷりのトゲトゲが小気味よい絵本。
キン! コン! カン! が読者の耳に鳴り響くこと間違いなし。

こちらは、昨秋の読書会で取りあげた、高学年から中学生向きの本。
『ファニー 13歳の指揮官』
ファニー・ベン=アミ 著 石川えりこ 絵  伏見 操 訳 岩波書店 

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フランスで暮らすユダヤ人の少女、ファニーの戦争体験の実話。
ユダヤ人迫害の手が迫るなか、子どもたちは集団でスイスへ逃がしてもらえることになり、
危険な旅が始まる。しかし引率の青年が逃走、
13歳のファニーが、急きょ子どもたちのリーダーに。子どもたちだけの逃避行が待つものは――。
『少女ファニーと運命の旅 』という映画にもなった作品。
「しっかりしなくちゃ」と、恐怖と涙をこらえて、子どもたちを率いるファニーの姿が凛々しい。

『ある晴れた夏の朝 』小手鞠 るい 作 タムラ フキコ 絵 偕成社

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 主人公はアメリカの高校生たち。
ヒロシマ・ナガサキに落とされた原子爆弾は、
かの戦争の終結を早めたという肯定派と、まったく人道に反するという否定派にわかれ、
ディベートをくりひろげる。
真珠湾攻撃、日中戦争、ナチズム、人種差別など、
多方面から繰り出す高校生たちの弁の真摯さ、見事さ。
原爆という人類最大の負の側面を学ぶ決定版といえるだろう。
それにしても、広島の慰霊碑に刻まれた「過ちは繰返しませぬから」を、
英語圏ではそんなふうに解釈される危険性があるとは! びっくりだった。
 
『マレスケの虹』 森川成美 作 Re゜絵 小峰書店

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第二次世界大戦期のアメリカ・ハワイで、日系二世の少年マレスケに戦争の影がのしかかってくる。
アメリカ国籍を持つマレスケと兄、あくまでも日本人として生きようとする祖父。
マレスケたち日系人二つの国のあいだで揺れ、波にたたきつけられていき・・・。
ずしりと重い内容ではあるが、筆者の端正で行き届いた文章により、
読後感は透明で、心強く未来を感じさせてくれる。

最後に、絵本作家さん61人によるメッセージ画集を。
『戦争なんか大きらい! 絵描きたちのメッセージ』子どもの本・九条の会 著 大月書店

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 画家さんたちの平和への思いの詰まった絵が見開きの片側に、
もう片側には日本国憲法の条文を掲載。
画家さんには、和歌山静子さんや田畑精一さん、故かこさとしさんはじめ、
日本を代表する絵本作家さんがずらり。
その顔ぶれだけでも、唸ってしまう。
内容の一例をあげれば、ささめやゆきさんの銃をかまえる兵士の絵には、
「その銃の先にはほんとうに敵国はあるのか」という問いかけが。
大人と子ども、いっしょにページをめくって、話をしながらながめてほしい一冊だ。




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プロフィール

金G亀美

Author:金G亀美
イラスト:大塩七華
かなじ・なおみ 児童書作家 埼玉県在住。
主な著書に『さらば、猫の手』(岩崎書店)『マタギに育てられたクマ』(佼成出版社)『ミクロ家出の夜に』(国土社)『花粉症のない未来のために』『子リスのカリンとキッコ』(佼成出版社)『知里幸恵物語』(PHP研究所)『私が今日も、泳ぐ理由 パラスイマー一ノ瀬メイ』(学研プラス)『となりの猫又ジュリ』(国土社)『クレオパトラ』『マイヤ・プリセツカヤ』(学研プラス)『読む喜びをすべての人に 日本点字図書館を創った本間一夫』(佼成出版社)など。
日本児童文芸家協会会員 
童話サークル「かざぐるま」会員
よみうりカルチャー・大宮教室
「童話を書いて楽しもう」講師

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